大事な存在を失った後の悲しみをどうする?遺族のグリーフワークとは

更新:2022.01.28

親、配偶者、子ども、ペットなど、愛する身内との別れは何物にもかえがたい辛さを伴います。

「この悲しみが癒えるのはいつ?」「こんな気分になるのはおかしいこと?」などと思い悩む遺族もいることでしょう。

愛する存在を亡くした後、悲嘆のプロセスを体験することを、グリーフワークといいます。

グリーフワークを学び、自分がどんな段階にいるかを知りましょう。

また、グリーフを自分でケアするためにおすすめの行為についてもご紹介します。

死別の辛さを見つめ、自分がどの段階にいるかを理解するグリーフワーク

大事な存在との別れは辛く耐えがたいものです。

中には気分の落ち込みがずいぶん長く続き、鬱病になってしまうこともあります。

他人のちょっとした言葉に傷ついたり、怒りがわき上がったりと、自分をコントロールできないことにいらだちや情けなさを感じている人もいるかもしれません。

そんなとき、知っておきたいのがグリーフワークの考え方です。

深い嘆き(グリーフ)から、心身状態を悪くしてしまう人にどう対処すべきかというのは、古くから医療関係者や心理学者の大きなテーマでした。

研究が進んだ結果、多くの人が経験するグリーフの段階(プロセス)があることが分かってきています。

悲嘆のプロセスを学ぶと、「自分は今、この地点にいるのだな」と、辛いながらも現在地を確認し、自分を客観的に見つめられるでしょう。

12段階に分かれる悲嘆のプロセス

死生学の権威であるアルフォンス・デーケンは、悲嘆のプロセスとして次の12段階を提唱しています。

彼はドイツ生まれのイエズス会司祭で、長く日本の大学で死生学について教鞭を執りました。

日本の終末期医療、ホスピスの普及に多大な貢献をした人物です。

1.精神的打撃と麻痺状態

愛する人を失ったショックで一時的に現実感覚が麻痺し、思考力がぐっと落ち込みます。

2.否認

死を否定し、「きっとなにかの間違いだ」と思い込みます。

3.パニック

身近な人の死に直面した恐怖により、極度のパニック状態に陥ります。

4.怒りと不当感

「なぜ私だけがこんな目にあうのか」と、不当な仕打ちを受けたという怒りがこみ上げてきます。

5.敵意と恨み

周囲の人や故人に、やり場のない感情をぶつけます。

6.罪意識

「こんなことになるのなら、生きているうちに、もっとこうしてあげれば良かった」と過去の行いを悔やみ、自分を責めます。

7.空想形成、幻想

食事を余分に作る、故人の部屋を整理せずそのままにしておくなど、愛する存在がまだ生きているかのようにふるまいます。

8.孤独感と抑うつ

葬儀などが一段落し、落ち着いてくると、紛らわしようのない孤独と寂しさが襲ってきます。

9.精神的混乱と無関心

空虚な気持ちから、あらゆることに関心を失います。

10.あきらめ-受容

辛い現実をきちんと受け入れる段階です。

11.新しい希望-ユーモアと笑いの再発見

ユーモアや笑いに反応するようになります。ここまで来れば、悲嘆のプロセスをうまく乗り切ったといえます。

12.立ち直りの段階-新しいアイデンティティの誕生

愛する人を失う前の自分とは違う、新しいアイデンティティを獲得し、より成熟した人間へと成長します。

全ての人が、このプロセスを順番通りにたどるというわけではありません。プロセスを遡る、一つの段階が長期間続くなど、プロセスのたどり方は本人の状況や亡くなったときの事情によって変わります。

(参考:『よく生き よく笑い よき死と出会う』アルフォンス・デーケン、新潮社)

例えば、こんなことはありませんか?

失った家族のことを想う遺族のイメージ

「あのとき、ああしておけば、あの人は助かったかもしれない」

6の段階、「罪意識」に相当する感情です。客観的に見れば自分に責任がないことは明らかなのですが、どうしてもこのような感情に陥ってしまう人は多いようです。

時間が経つにつれ、過去を冷静に振り返られれば、強い自責の念からは解放されるでしょう。

また、他の人にその気持ちを話せば、「絶対に、あなたのせいではない」と客観的な意見を得ることができます。

それでもネガティブな「もしも」から抜け出せないときには、それをポジティブな「もしも」に変えてみるという方法も。

「もっと早く病院に行っておけば、余命2年などということにはならなかったのでは」と思っているのなら、「あのタイミングで病院に行ったから、2年も生きられたんだ。

もしも病気のサインを見逃していたら、もっとひどいことになった」と気持ちを切り替えるのです。

「どうしてみんな、無神経なことを言うんだろう?怒りとやるせなさが止まらない」

5の段階、「敵意と恨み」に相当する感情です。「早く元気を出してね」「どう?落ち着いた?」などといった周囲からの声がけは、遺族の負担になることがあります。

そんなとき、敏感に反応し、怒りの感情が続いてしまったり、やるせなくて泣いてしまったりというのは、ままあることです。

グリーフワークの専門家の多くは、「あまりこだわらず、気にしないことが一番大事」と口をそろえます。

相手としても、深く考えての発言ではないことが多いためです。

それでもどうしても気になってしまうという人は、それを言った相手の立場や気持ちについて考えてみましょう。

深い悲しみの中にある人に、何らかの言葉をかけるのは本当に難しいこと。

「なんとか励まそうという気持ち」だけをありがたく受け取る、という対処の仕方はいかがでしょう。

「何もやる気が起きない。ご飯はおろか、顔を洗うことも、歯磨きすらやる気がない」

9の段階、「精神的混乱と無関心」に相当する感情です。

まずは「この段階をやり過ごせば、もう少しで悲嘆のプロセスを完了できる」と知ることが大事。

生きる気力が湧かない状態は、一生続くわけではありません。

ただ、無気力の状態から、食事・排泄・ゴミ出しなど、生きるのに必須の行動を本格的にできなくなってしまう「セルフ・ネグレクト」に陥る人がいるのも事実です。

配偶者を亡くした後、家がゴミ屋敷化してしまう高齢者の問題が取り沙汰されています。

プロセス自体は重要ですが、「このままでは無気力から抜け出せない」と感じたら、子世代や友人と「電話する」「会う」「家に招く」など負担にならない交流から始めてみましょう。

交流の機会があれば身なりをきちんとせざるを得ませんし、誰かを家に入れるなら、やむなく掃除もするでしょう。

「ときどき恐怖感から失神したり、泣き叫んだり、動悸や息切れが起こってしまう」

3のパニックに相当します。この状態が長く続くと危険なので、1度のみならず複数回パニック症状に襲われる場合は、すぐ心の専門家に相談が必要です。

気持ちが少し落ち着いたら、やってみたいこと

少し気持ちが落ち着いたら、悲嘆の感情をさらに落ち着かせるために、以下のようなことをやってみるのはいかがでしょうか。

ただ、悲嘆が強すぎるときに行うとかえって辛さがフラッシュバックし、さらに状態が悪化する可能性があります。自分の気持ちを確認しながら、少しずつ取り組みましょう。

自分の気持ちを書き出してみる

今の自分の気持ちを、手帳などに書き出します。日記も良い方法です。

書き出した物を眺めれば、自分の気持ちを客観的に観察する助けとなります。

亡くなった存在への手紙を書く

亡き人に手紙を書くことで、気持ちが落ち着くケースがあります。

京都府の大聖寺には、亡くなった人への手紙を投函できる「緑のポスト」があり、春と秋の2回、手紙をお焚き上げして供養することで、あの世へ手紙を届けています。

「あちらの世界」に思いをはせてみる

「宗教めいた考え方が苦手」という人もいるかもしれません。

しかし、愛すべき存在が死後の世界でふだん通り暮らしていて、そこにはすでに亡くなった人たちもいるという想像が、気持ちを慰めてくれることもあります。

法要やお別れ会、納骨などの供養を行う

四十九日法要や百か日法要といった供養が、気持ちに区切りをつけてくれるきっかけになることがあります。

「お墓に納骨したら、気持ちがスッキリした」「法要で親族と思い出話をしたことで、気持ちが整理できた」という人も。

遺品整理をする

手つかずになっていた故人の遺品を少しずつ整理することで、気持ちも整理できるケースがあります。

あまりにものが多く遺品整理が進まない場合は、子世代などに手伝ってもらいましょう。

グリーフワークの会に参加する

子どもを亡くした、自死で家族を亡くしたなど、同じような境遇で死別を経験した人が集まる会が、全国にあります。

自分の経験を語ることで気持ちを整理し、また他の人がたどったグリーフワークを知ることで「自分も、このように落ち着いていくのかもしれない」と、今後を見据えることができます。

写真を持ち歩く

失った存在の写真を常に持ち歩くことで、精神が安定する人がいます。

遺骨を込められるアクセサリーも販売されています。

塞ぎ込んだ状態が2ヶ月以上続いたら、一度心の専門家に相談を

以上のように、グリーフワークは死別を経験した人が誰でも通る道であり、塞ぎ込んだ気分が一生涯続くわけではありません。

それを知っていれば、「今後自分はどうなってしまうのだろう」という不安からは解放され、じっくり悲しみと向き合うことができるでしょう。

ただ、水も食べ物も受け付けず脱水や栄養失調で倒れたり、震えや動悸などのパニック障害が頻繁に起こったりといった激しい状態になってしまったときには、早めに心の専門家へ相談するのがおすすめです。

また辛い気持ちが強い状態が2ヶ月以上続くというときにも、専門家への相談をおすすめします。

【参考文献】

『死別の悲しみを乗り越えるために』長田光展、彩流社

『悲しみの中にいる、あなたへの処方箋』垣添忠生、新潮社

『遺族外来 大切な人を失っても』大西秀樹、河出書房新社

『死別の悲しみに向き合う グリーフケアとは何か』坂口幸弘、講談社

『親を見送るときに役立つお金と心の本』天野隆、香山リカ、主婦の友社

『NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法』ガイ・ウィンチ、かんき出版

『大切な人をどう看取るのか 終末期医療とグリーフケア』信濃毎日新聞社文化部、岩波書店

『死別で気づいた生きるヒント』山賀邦子、リヨン社

『家族を亡くしたあなたに 死別の悲しみを癒すアドバイスブック』キャサリン・M・サンダーズ ちくま文庫

『喪失学 「ロス後」をどう生きるか?』坂口幸弘、光文社新書

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