散骨を海でやるには?海洋散骨の手順や費用相場、メリットとデメリット
更新:2022.10.03
散骨を海で行いたいなら、さまざまな選択肢があります。
ほんの数十年前は「違法ではないか」と思われていた散骨ですが、「亡くなったら大海に眠りたい、そして自然に還りたい」と希望する人が増え、散骨を行う業者がたくさんできてきました。
散骨を海でやりたい人に向けて、手順や費用相場、メリットとデメリットをお伝えします。
散骨を海で行うことは、徐々に認められてきた
散骨を海で行うことは、「海洋散骨」と呼ばれています。
業界団体等によると、海洋散骨の認知度は8割を超え、年間推計で国内2万5000件が行われているとされています。
実は、散骨は数十年前まで違法と思われてきました。
昭和の大スターであった石原裕次郎が1987年に亡くなったとき、兄の石原慎太郎氏は「弟がこよなく愛していた海に還してあげたい」と海洋散骨を希望しましたが、「散骨は難しい」とされ、叶わなかったほどです。
しかし、1991年に市民団体が公開散骨を行った際、法務省は「葬送のための祭祀として、節度をもって」行われる限り、遺骨遺棄罪には当たらないと見解を示しました。
これにより散骨は、徐々に弔いの方法として認められるようになりました。
現在、散骨業者は東京だけでも30社ほどがあり、全国展開している会社も見られるようになりました。散骨業者を紹介する会社などを含めると、窓口はたくさん見つかります。
この状況をかんがみ、2021年には厚生労働省が事業者向けに「散骨に関するガイドライン」を出しました。
ガイドラインを守る業者に依頼できれば、安心・安全な海洋散骨が可能になります。
散骨を海で行う手順
散骨を海で行うときの手順は、以下の通りです。散骨を行う人には制限がないため、遺族などが自分たちの手で行うことも可能です。
ただ、「手順通りにできるか不安」「自分たちで船をチャーターできない」と感じる人は、散骨業者に依頼しましょう。
1.散骨場所の選定
まずはどこの海に散骨するかを決めます。散骨場所を決めるポイントは、以下の3つです。
・本人が希望している海があれば、優先する
思い出の場所に還りたいと考えているなら、何より優先しましょう。
しかし、次の2つの点から考えると、叶わない場合もあります。
・人に迷惑をかけない場所にする
海水浴場や養殖場、漁業を行っている湾内など、人に迷惑がかかってしまう場所は避けましょう。
フェリーや遊覧船からの散骨も、行ってはいけません。
このガイドラインを守るため、散骨業者は岸から離れたところまで船を出します。
・条例違反にならないようにする
散骨禁止条例を敷いている市区町村があります。
その自治体内で散骨してしまうと、条例違反になります。
2.粉骨
一目で遺骨と分かるような姿のままで散骨を行うと、後で遺骨を発見した人から「遺骨の遺棄では?」「何かの犯罪かもしれない」と疑われてしまうかもしれません。
供養として散骨していることを示すため、遺骨を粉状に砕きます。
この粉骨を自力で行うのは大変です。
乳鉢などを使い、供養の一環として行う人もいますが、依頼する散骨業者に相談すれば、別料金でパウダー状に粉骨してくれます。
3.散骨日時や参加者の決定
散骨の日程を決め、参加者に知らせます。
散骨の人数に決まりはありませんが、乗船できる人数は限られるため、散骨業者や船をチャーターする会社に問い合わせましょう。
参加者には、天候によっては海に出られず延期となることも、忘れずに伝えます。
散骨のとき、僧侶からの読経が欲しい人は、つきあいのあるお寺や、依頼する散骨業者に相談しましょう。
4.服装や副葬品の準備
散骨の前日までに、散骨の準備を済ませておきます。
・服装
散骨時には、礼服ではなく、平服が好ましいとされています。
喪服では、船に乗るとき目立ってしまうためです。
また船上は足下が悪いので、スニーカーなど動きやすい靴を履きましょう。
・副葬品
遺骨を撒いた後、お花やお酒を撒いて供養とする人がいます。
お花は茎を取り除き花弁だけにする、ビニールや瓶は海に捨てないなど、環境負荷を考えて副葬品を用意しましょう。
・お布施
散骨に僧侶を呼んだ場合には、お布施を包みます。
5.散骨当日の作法
散骨当日は、海岸から離れた場所まで船を出し、遺骨を撒きます。その後、副葬品を海へ入れ、黙祷を捧げましょう。
散骨を海で行うときの費用相場
散骨を海で行う場合、次の4つの方法があり、それぞれ費用相場が変わってきます。(お布施は別途必要となります。)
業者に依頼し、個人散骨を行う
一家族だけで海へ向かい、散骨することを個人散骨といいます。
個人散骨の費用相場は、25万円から30万円です。
業者に依頼し、合同散骨を行う
複数の家族と予定を合わせ、船に同乗して散骨することを合同散骨といいます。
船のチャーター代を折半できるため、個人散骨より割安です。費用相場は10万円~20万円ほどです。
業者に依頼し、委託散骨を行う
業者に遺骨を預け、業者の都合が良い日に散骨してもらうことを、委託散骨といいます。
委託散骨では、家族は同行しません。費用相場は、骨壺1つあたり5万円ほどです。
自分で散骨を行う
先に紹介した手順にのっとり、自力で散骨を行う人もいます。
船のチャーター料金が主な出費になります。船舶を所有している人なら、費用負担は生じません。
散骨を海で行うメリット
散骨を海で行うメリットは、以下の6つです。
海に還ることができる
海に強い憧れがある人にとって、海への散骨は魅力的なものでしょう。亡くなったら自然に還りたいと考えている人にも適しています。
お墓をつくるよりも安価
承継者が必要となる一般的なお墓は、100万円から200万円といった単位のお金がかかります。
墓石ではなく樹木を墓標とする樹木葬は、一般的なお墓よりは安価ですが、散骨のほうが安く済みます。
お墓の承継者が不要
お墓を維持していくために、お墓掃除や供養を行う人を立てる必要はありません。
身寄りのない人や、子世代にお墓で負担を掛けたくない人にぴったりです。
墓じまいで残った先祖の遺骨もいっしょに供養できる
今あるお墓を撤去して、お寺など墓地の管理者へ返還することを「墓じまい」といいます。
お墓の継承者が不足している現代において、墓じまいをする人は増えてきています。
墓じまいの後、先祖の遺骨を供養する方法として、散骨は有効です。
宗教フリー
散骨は、どんな宗教の人でも行うことができます。
「お寺の檀家を抜けた。以後はどこかのお寺の檀家になりたくない」「無宗教葬をしたい」といった人に適しています。
陸よりも散骨可能な場所が豊富
陸で散骨を希望する場合、他人の土地へ勝手に遺骨を撒くことはできませんから、選択肢は限られます。
海洋散骨にも場所の縛りはもちろんありますが、陸での散骨ほどではありません。
散骨を海で行うデメリット
散骨を海で行うデメリットは、以下の6つです。
マナーに則った散骨をしないとトラブルになる恐れがある
先ほど紹介した手順や、厚労省のガイドラインに沿った散骨をしないと、周辺の人々とトラブルになる恐れがあります。
散骨に対する感情は人ぞれぞれで、散骨を忌避する人もいますから、慎重に行わなければなりません。
また、業者を探す際には、ガイドラインを守れているか、実績は十分かなど、信頼性に注目しましょう。
親族の了解を得られない可能性がある
散骨することを嫌う親族も、いないとは限りません。
とくに故人の兄弟や子どもなど、近親者からNGが出た場合には、例え故人の希望であっても、実施は難しいかもしれません。
反対者がいるなら「全ての遺骨ではなく、遺灰を少しだけ散骨して、あとはお墓に納骨する」など、分骨も提案してみましょう。
残される人に散骨の負担がかかる
散骨は本人ではできないので、どうしても子世代などに託すことになります。
一時的に負担をかけてしまうことに、ためらう人もいるでしょう。
生前から業者を決めておく、お金を準備しておくなどしたうえで遺言し、残される人の負担を減らすことが重要です。
遺骨を取り戻せない
全ての遺骨を散骨してしまうと、後でどんなに遺骨を取り戻したいと思っても叶いません。
後悔しないためにも、少しだけ遺骨を残しておいて、小さな骨壺で供養したり、遺灰を込められるブレスレットを活用したりするのがおすすめです。
供養の対象が分からず不安になることがある
命日やお盆、お彼岸など、今までならお墓参りをしていた時期に「お参りしたいけれど、どこに手を合わせたら良いか分からない」と感じることがあります。
命日に船で散骨地点まで行ったり、「海はどこまでもつながっている」と近くの海へ行って手を合わせたりするご遺族もいらっしゃいます。
船酔いが心配
船に慣れていない人は、船酔いが心配です。酔い止めを使う、風が強く船が揺れそうなときは無理せず延期するなどの工夫で、船酔いを最小限にとどめましょう。
散骨を海で行うなら、必ずマナーを守って
以上、海での散骨について解説しました。海洋散骨にはいくつかのマナーがあります。
とくに自力で散骨したいという人は、ガイドラインを熟読するなどしてトラブルのないようにしましょう。
この記事を書いた人
奥山 晶子
葬儀社への勤務経験、散骨を推進するNPO「葬送の自由をすすめる会」の理事の経験、遺品整理関係の著書・サイト制作サポートなどから、終活全般に強いライター。ファイナンシャルプランナー(2級)。終活関連の著書3冊、監修本1冊。最近の著書は「ゆる終活のための親にかけたい55の言葉」オークラ出版。ほか週刊現代WEBなどサイトへの終活関連コラム寄稿、クロワッサン別冊「終活読本」の監修や、令和6年5月発刊「ESSE」6月号のお墓特集を監修している。