葬儀で茶碗を割るってホント?今も残る弔いの風習

更新:2025.01.12

ドラマ映像などで、葬儀のときに茶碗を割るシーンを見たことがある人もいるでしょう。

「本当に葬儀でそんなことするの?」

「自分が喪主になったら、茶碗を割らなければならないのだろうか」と疑問をお持ちの方に、葬儀で茶碗を割る風習の意味を解説します。

また、遺族として茶碗を割ることになったとき、どんな対応をすればよいのか、割りたくないときにはどうすればよいのかもご紹介します。

葬儀のときに故人が使っていた茶碗を割る地域がある

葬儀で茶碗を割る風習は「茶碗割り」などと言われます。

割られる茶碗は、故人が生前使っていたものです。

棺が霊柩車に乗せられ、火葬場へ向かって出発することを「出棺」といいます。

告別式が終わり出棺するとき、クラクションが鳴らされるタイミングなどで故人の茶碗を地面に叩きつけ、割ります。

茶碗割りは、近畿地方から九州にかけて広く行われてきた葬儀の風習です。

関東から北の方にはあまり見られない風習なので、「うちの方では見たことがない」という人も多いでしょう。

また、近畿以西であっても地域によっては茶碗割りをやらなかったり、昔は行っていたものの今では廃れていたりします。

筆者の広島県では、浄土真宗が圧倒的に多い地域のため、茶碗わりの風習は滅多にお見かけしません。

浄土真宗ではお亡くなりになられた方は誰でも、どんな人生を歩まれた方でも、直後に極楽浄土へ行かれるという考えのため、故人が浄土へ行けますようにと願う茶碗割りの風習はありません。

このように茶碗割りは必ず行う風習ではありません。

茶碗割りを行うかどうかは、地域によって、また遺族の考え方によって違います。

葬儀のときに茶碗を割る理由

なぜ葬儀のとき故人の茶碗を割るかといえば、故人の魂をこの世から解放するためです。

茶碗は毎日使うもの。

もし茶碗が残っていたら「いつものようにご飯を食べたい」と、故人の魂が現実世界に残ってしまうかもしれません。

故人のこの世への未練を断ち切るために、あえて茶碗を割ることで「あなたが戻れる場所はないよ」

「あの世へ向かいなさい」と魂にメッセージを知らせるのです。

つい数日前まで生きていた故人に「戻ってくるな」と知らせるのは、とても残酷なことだと考える人もいるかもしれません。

しかし昔の人は、早く故人の魂をこの世から解放しなければ、極楽浄土へ向かうことができないと信じていました。

故人の魂が安らかに成仏できるよう、手助けするための風習なのです。

故人の魂の未練を断ち切ることは、遺族の未練を断ち切ることにも繋がります。

毎日ご飯をよそってあげていた故人の茶碗を、割ってなくすことで「もう大切な人はこの世にいない」と強く実感することになるためです。

茶碗割りには、故人の死を受け入れるという意味もこめられています。

葬儀で茶碗を割ることになったときの注意点

葬儀の出棺場面

葬儀で故人の茶碗を割るのは、喪主あるいは遺族の中の誰かです。

茶碗割りがある地域では、葬儀社から事前に説明があり、出棺の場へ故人の茶碗を持参するよう求められます。

葬儀スタッフへ茶碗を預けると、出棺時にスタッフが茶碗を手渡してくれます。

茶碗を地面に叩きつけるタイミングについても案内してもらえます。

もし葬儀で故人の茶碗を割ることになったら、以下の5つに注意しましょう。

別の茶碗を割ってもいい

「故人が愛用していた茶碗を割るなどと想像しただけでも辛い」と、茶碗割りをストレスに感じる人もいるでしょう。

夫婦茶碗だった、故人が作った茶碗だったなど、思い出深い茶碗であればなおさらです。

どうしても故人の茶碗を割りたくないと感じたら、家にある別の茶碗を割っても構いません。

茶碗割り用の茶碗を用意している葬儀社もあるため、家に別の茶碗がなければ相談してみましょう。

茶碗を割りたくなかったら、割らなくてもいい

「形ある茶碗を故意に割ること自体が受け付けられない」と考える人もいるでしょう。

葬儀内容の決定権を持つのは喪主です。

地域の風習として茶碗割りが定着していたとしても、喪主がやりたくないなら、やらなくても構いません。

葬儀社は喪主の意向を尊重するため、風習だからといって強要することはありません。

親族やご近所には「このたびは喪主様のご意向により茶碗割りは行いません」などと説明してくれます。

後で茶碗を割ってもいい

出棺のときに茶碗を割らなかったとしても、後で「やはり割ればよかった」という思いがよぎることがあります。

葬儀が終わって気持ちが少し落ち着いてから「故人は迷っていないだろうか」と、不安になってくることがあるためです。

茶碗割りは、出棺のときでなくても行うことができます。

いつでも、自分の心が整ったときに茶碗を割って構いません。

きっとそのときが、故人の死を少し受け入れられたタイミングなのです。

家の中で茶碗を割るときは、ビニール袋に入れてからトンカチで叩くなど、破片が飛び散ったり家財が傷ついたりしないよう工夫しましょう。

意外と力を強めにしないと割れない

筆者も過去に茶碗を割るご葬儀に立ち会うことが何度かありましたが、茶碗を割る際、

力加減を遠慮気味にすると、地面へ茶碗を落としても割れない場面を何度か見かけました。

故人が愛用していたもの、大切にしていたものであれば、力一杯割ってしまうのは難しく、躊躇してしまうのも無理はありません。

しかし一度で割ることができないと、周囲の参列者の視線を感じながら、慌てて再度挑戦となるのも気恥ずかしい気持ちにもなるでしょう。

茶碗を割る時は、ある程度の力をしっかり込めて行いましょう。

茶碗が割れた後のことも考える

筆者が出棺時に茶碗を割るご葬儀に立ち会った時は、割った後の破片が地面に散らばらないように、予めビニル袋の中に茶碗を入れて封をさせていただきました。

こうすることで地面へ落下時した時も、茶碗は封をしたビニル袋の中で割れるだけなので、破片が周囲へ飛び散ることはありません。

後で周辺を掃除する手間も省けますし、周囲の人や周辺環境を傷つけることも防げるでしょう。

風習には故人を送るための祈りが詰まっている

故人がこの世へ帰ってこられないようにする風習は、他にもあります。

「出棺時に棺を3回回して故人の方向感覚を失わせる」

「木で仮の門を作って棺をくぐらせ、その門はすぐに燃やしてしまう」

「燃やした藁を屋根の上に投げることで、故人に家が燃えてしまったことを伝える」などです。

出棺のとき、通常では見られない珍しい風習を見たら、どのような意味が込められているのか確認してみましょう。

日本の葬儀風習には、「故人が無事、浄土へ行けますように」という思いが詰まっています。

この記事を書いた人

廣田 篤  広島自宅葬儀社 代表

葬儀業界23年、広島自宅葬儀社代表。厚生労働省認定技能審査1級葬祭ディレクター。終活カウンセラー。前職大手葬儀社では担当者として 1500 件、責任者として1万件以上の葬儀に携わる。実母の在宅介護をきっかけに広島自宅葬儀社を立ち上げて現在に至る。広島市内だけでなく瀬戸内海に浮かぶ島々から、山間部の世羅町、神石高原町まで広島県内あらゆる地域の葬儀事情に精通する広島の葬儀のプロ。身内の死や介護の経験、数々の葬儀を通じての縁から「死」について考え、文章にすることをライフワークとしている。

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