費用負担が戻ってくる?葬儀代は確定申告では控除できず、相続税で控除対象になる
更新:2024.07.20
葬儀には、100万円単位のお金がかかります。
この葬儀代は全て喪主が負担しなければならないわけではなく、故人の遺産から出しても良いことになっています。
「では、確定申告で控除できる?」と考える方もいるかもしれませんが、確定申告で葬儀代を所得から差し引くことはできません。
葬儀代の控除が可能なのは、相続税申告の際です。
喪主などが一時的に負担した葬儀代は、いつどのように戻ってくるのかを解説します。
目次
葬儀代は確定申告では控除できない
確定申告を行うと、さまざまな経費が控除され、課税対象となる所得の金額を減らすことができます。
また、寄付金控除や医療費控除、生命保険料控除など、事業に直接関わりのない出費の控除も認められています。
扶養控除や配偶者控除など、家族がいることで受けられる控除もあります。
そこで「葬儀代も控除の対象にならないだろうか」と考える人がいるかもしれません。
しかし、葬儀代は確定申告で控除を受けることはできません。
よって、葬儀があった年の確定申告は、例年通りに行うことになります。
香典は申告する必要がない
葬儀では多くのお金が出ていきますが、入ってくるお金もあります。
参列者からいただく香典です。
香典を収入として確定申告しなければならないのではと思う人もいるかもしれません。
しかし、香典は申告する必要のないものです。
香典をはじめ、出産祝いや結婚祝いなど、世の中には金品のやりとりが多々あります。
これらのご祝儀や見舞金、香典については、常識の範囲内であれば非課税と決められています。
よって申告の必要はありません。
葬儀代は相続税で控除対象となる
葬儀代は、相続税申告の際に控除を受けられます。
相続税の申告書内に、債務や葬儀費用の明細を記載する欄が設けられているため、そこへ支払い年月日や金額、費用支払先、葬儀費用を負担した人の氏名などを記入して、相続財産の金額から控除します。
ただし、葬儀社からもらった明細の合計額をそのまま書くわけではありません。
控除できる葬儀費用の種類は決まっており、それ以外は控除できません。
葬儀費用として控除できるのは、以下のような費用です。
【遺産総額から控除できる葬儀費用】
・葬式、火葬、納骨にかかった費用
・密葬と本葬というように、葬儀を2回行ったときはその両方の費用
・遺体や遺骨の搬送にかかった費用
・お通夜など、葬式の前後に生じた費用で通常葬式に欠かせない費用
・お布施など宗教者への謝礼
以下の費用は、遺産から葬儀費用としては差し引けません。
【遺産総額から控除できない葬儀費用】
・香典返しの費用
・本人が亡くなってから購入した墓石、墓地の費用
・初七日、法事などのための費用
相続税の申告期限
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10ヶ月以内に行います。
確定申告の期限は3月15日ですが、これとは違うことに注意が必要です。
相続税の申告をするためには、相続を確定させなければなりません。
葬儀後、なるべく速やかに相続人を集めて話し合いを行い、遺言がある場合は遺言に沿った相続を確定させましょう。
また、遺言書が自筆で、法務省による自筆証書遺言保管制度を利用していなかった場合は、家庭裁判所による検認が必要になります。
検認には日数がかかるため、なるべく速やかに手続きしましょう。
相続税がかかる人
全ての人に相続税がかかるわけではありません。
相続税には基礎控除額があり、遺産額が基礎控除額を超えなければ相続税はかかりません。
基礎控除額の算式は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。
法定相続人の数が少ないほど、相続税を納めなければならない可能性が高まります。
また、都市部に持ち家があるケースも要注意です。
不動産価値が高く、他にこれといった遺産がなくても持ち家の評価額だけで基礎控除額を超えてしまう可能性があるためです。
相続税の基礎控除額については、以下の記事に詳しく解説しています。
参考にしてください。
相続税がかからない場合も、葬儀代を遺産からもらってよい
相続税がかからなければ、葬儀代を遺産からもらえないわけではありません。
申告書による控除という形にはなりませんが、故人の預貯金から直接もらって構わないものです。
ただ、相続が確定しないうちに、また他の相続人の同意を得ない形で故人の財産から葬儀代を出し引いてしまうと、遺産分割協議の際にトラブルとなる可能性があります。
相続が確定しないうちは、故人の財産には触らないようにしましょう。
また、他の相続人に納得してもらうためにも、葬儀費用の明細書を保管しておくのが大事です。
しかし、葬儀代金は高額です。
なかには早く故人の預貯金を下ろさないと、生活が困窮してしまう家庭もあるでしょう。
そのような場合には、預貯金の仮払い制度の利用などが有効です。
詳しくは以下の記事で解説しているため、参考にしてください。
故人の準確定申告も忘れずに
身内が亡くなると、自分の確定申告だけでなく、故人の確定申告についても気にしなければなりません。
故人の確定申告は「準確定申告」と呼ばれています。
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は死亡日)から4ヶ月以内と決まっています。
通常の確定申告とは締め切りが違うため、注意しましょう。
確定申告は、医療費控除や寄付控除の申告が必要ない会社員などは、行う必要がありません。
故人が会社員であった場合も同様です。
以下のような場合は準確定申告をする必要があるため、確認してみましょう。
【故人の準確定申告が必要な場合の例】
・自営業等を行っていて給与以外の所得があるとき
・副業などで20万円を超える給与ではない収入があった場合
・不動産を貸し出していたとき
・複数の企業から給料をもらっていたとき
・給与が2,000万円を超えるとき
・医療費控除を受けたいとき(死亡後に支払った入院費用などは対象外)
・公的年金等による収入が400万円を超えるとき
「公的年金等による収入」とは、国民年金や厚生年金、恩給、共済組合、国民年金基金、厚生年金基金、企業年金などです。
準確定申告が必要かどうかすぐには判断できない場合、まずは故人宅に確定申告の資料があるかどうか調べてみましょう。
前の年に確定申告を行った形跡があれば、準確定申告をしなければならない可能性が高いといえます。
前の年の確定申告資料を確認し、どんな収入について記載されているかを調べてみましょう。
準確定申告のヒントになります。
参考:No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(国税庁)
葬儀後の手続きは大変!時間に余裕を持った対応を
相続税申告しかり、準確定申告しかり、葬儀後の手続きにはそれぞれ期限があり、順番にこなしていくのはとても大変です。
公的手続きの他にも、お墓や仏壇、法事の手配といった仏事関連の手続きがあります。
期限をしっかり把握して、期限の短いものから確実に行っていくのが大事。
チェックリストを作り、時間に余裕のあるときに少しずつ手続きしていくのがおすすめです。
葬儀後の手続きリストについては、以下の記事も参考にしてください。
この記事を書いた人
奥山 晶子
葬儀社への勤務経験、散骨を推進するNPO「葬送の自由をすすめる会」の理事の経験、遺品整理関係の著書・サイト制作サポートなどから、終活全般に強いライター。ファイナンシャルプランナー(2級)。終活関連の著書3冊、監修本1冊。最近の著書は「ゆる終活のための親にかけたい55の言葉」オークラ出版。ほか週刊現代WEBなどサイトへの終活関連コラム寄稿、クロワッサン別冊「終活読本」の監修や、令和6年5月発刊「ESSE」6月号のお墓特集を監修している。