死後の手続き、相続でよくある失敗例とは?ケーススタディで注意点を知ろう

更新:2024.05.23

死後の手続きには、たくさんの種類があります。

働き盛りの人が喪主になると、役所を通じなければならない手続き関係はとても大変です。

また、相続の問題も降りかかってきて、場合によってはトラブルになることも。

今回は、悩みが生じやすいケースを仮の事例として紹介し、注意点をまとめました。

参考にしてください。

実はけっこうある、死後の手続き

死後の手続きというと、「自治体に故人が亡くなったことを伝える手続き」とだけ捉える人もいるでしょう。

しかし、実際には以下のような手続きも発生し、個々の状況や事情に合わせて速やかに行う必要があります。

・退院手続き

・保険証の返還

・年金関係の手続き

・世帯主の変更

・生命保険金の請求

・ライフラインの解約または名義変更

・クレジットカードの解約

・四十九日法要の準備

・個人の確定申告

・相続税の申告

・相続登記(不動産の名義変更)

それぞれの手続き方法や期限については、以下の記事に詳しく解説しています。参考にしてください。

相続の難しさは遺産の金額と関係ない

「相続関係のトラブルに注意を」というと、「自分の家はお金がないから相続争いは発生しない」と考える人も多いでしょう。

しかし、相続で最も揉めやすいのは、相続すべき自宅だけがあって現金がないケースです。

残された子世代のうち、例えば長男が自宅を継ぐとして、他のきょうだいに不公平にならないようまとまった現金を渡すことができず、トラブルになるケースがけっこうあります。

このたびのケーススタディでは、いわゆる資産家の相続争いではなく、一般的な家庭でも陥りやすい問題について複数取り上げます。

死後の手続きと相続の失敗談~7つのケーススタディ~

死後の手続き イメージ

1.故人のスマホのパスワードが分からず必要な情報が取れない

最近よくある失敗談の一つです。

スマートフォン(以下スマホ)には、今や生活に欠かせないたくさんの情報が詰まっています。

仕事先や親族、友人の連絡先をはじめ、利用しているサービスのアカウント情報、銀行通帳や請求関係を管理するアプリなどなど。

しかし、個人情報の塊であるスマホは、パスワードが分からなければほぼ開くことができません。

「身内が亡くなり、関係者に連絡を取りたいけれど、スマホが開けず誰にも連絡ができない」

「故人が利用していたサービスを解約したいけれど、そもそも何を契約していたのか分からない」といった困りごとが増えています。

ほとんどのケースでは、スマホにたまたまかかってきた電話を受ける、通知を確認するといった些細なきっかけを頼りに、できる限りの情報を寄せ集めることになります。

2.ライフラインを解約したら後の片付けが困難に

手続き関係をこなすのが得意な人が陥りやすい失敗です。

必要な手続きをサクサクこなし、空き家となった故人宅を「もう誰も住まないし、基本料金がもったいないから」と電気や水道、ガス、ネットなどを解約してしまうと、後で片付けを行うときに不便が生じます。

電気がつかなければ夜間の清掃はできませんし、水道が通っていないと水拭きもできません。

あわてて、相続人名義で契約し直すことになります。

逆の問題もまた起こりがちです。

そのうち片付けしたいからと実家のライフライン契約をそのままにしておいた結果、数年もの間、基本料金だけを支払い続けてしまう。

非常にもったいない話です。

3.忙しい中、何度も役所に行く羽目に

役所は平日の日中しか開所していません。

働き盛りの人は、どんな手続きが必要か、手続きに必要なものは何かをしっかり調べてから出向かないと、二度手間、三度手間になってしまいます。

ありがちなのが、「必要なものや手続きはネットで調べたから大丈夫」という考え方で役所に出向き、失敗することです。

手続きの内容は同じでも、役所によって必要なものが違う可能性があります。

また、個々の事情によって持参しなければならないものもあります。

必ず役所に電話で問い合わせてから出向くべきです。

4.自宅を売ろうとしたら所有関係が複雑でなかなか売れない

故人名義のものだと思い込んでいた家が、権利書を確認してみたら知らない人の名前が並んでいたというケースが良くあります。

不動産の名義変更には長く期限がなかったため※、ご先祖の名前のままになっているというケースも多いのです。

なかでもやっかいなのが、一つの土地を複数の人物で共有名義にしているケースです。

名義人の一人が亡くなっている場合、その相続人に連絡を取って相続の相談をする必要がありますが、知らない人には連絡ができません。

こうして土地の名義変更ができず、自宅を売りたくても売れないということが起きてしまいます。

※不動産を故人名義から相続人の名義に変更する相続登記は、2024年4月1日から期限が設けられます。相続により不動産取得を知ってから3年以内に手続きしなければならなくなりました。

5.きょうだいが納得する遺産分割ができず思い出の実家を売る羽目に

上項で少しご紹介したように、「自宅はあっても現金がない」状態だと、残された子世代全員が納得のいく遺産分割ができない可能性が高くなります。

「うちはきょうだい仲がいいから大丈夫」と思っていても、「懐かしい実家はきょうだいのもの、自分には一銭も入らない」という状況に、感情的になってしまう人がいるようです。

結果、せっかく思い出の詰まった自宅であっても、売りに出して現金化し、平等に分けなければならなくなってしまうケースがあります。

しかし、これで円満解決であればまだ良い方。

「現金は欲しいけれど、思い出の実家を売って欲しくない」という身勝手なきょうだいの要求に辟易する場合も。

6.一人で遺産整理を頑張ったら他のきょうだいから大ブーイング

空になった故人宅を整理するのは、一番近くに住んでいる子どもというケースが大半でしょう。

「他のきょうだいは忙しいから」と、良かれと思いせっせと一人で遺品整理を進めてしまうと、後から他のきょうだいに「あの遺品は捨てないでいて欲しかった」

「なぜ勝手に処分したのか」と責められてしまう場合があります。

深刻な例になると、「値打ちのある宝飾品を黙ってくすねたのでは」と疑われるケースがあり、きょうだい間に悲しい溝をつくってしまいます。

7.日付の新しい遺言書が後で見つかり相続がやり直しに

遺言書はより日付の新しいものが有効になります。

遺言書が見つかり、遺言の通りに相続を済ませてホッとしたのもつかの間、遺品整理をしていたら別の遺言書が出てきて「どちらが本当?」と騒ぎになることも。

もしも後から見つかった遺言書が、前に見つけた遺言書よりも日付の新しいものだったら、相続のやり直しが必要になります。

前の遺言と全く違う分割できょうだい間にわだかまりが生じた、計算し直してみたら相続税が発生したなど、トラブルのもとになりがちです。

ケーススタディから学ぶ、死後の手続きと相続の注意点

以上のような失敗例から、以下の注意点が導き出されます。

生前にスマホのパスワードを信頼できる人へ託しておく

スマホのパスワードは、本人が亡くなってしまってからでは聞き出せません。

理想としては、生前に本人がパスワードを相続人などへ託しておくのが一番です。

「スマホの盗み見が怖い」などと不安なら、同居家族ではなく離れて暮らす子世代へ伝えておくのはいかが。

手続きを進める前に全体像をとらえ、優先順位を考える

役所関係が二度手間、三度手間になったり、良かれと思って手続きしたことが不便を生んだり……。

行き当たりばったりで手続きをしていると、余計な手間が増えてしまいます。

本格的に動く前に、必要な手続きを箇条書きするなどして全体を見てみましょう。

必要な段取りが見えてきます。

できれば生前に親子で相続の話をしておく

相続が原因できょうだい間にわだかまりができるのを防ぐためには、生前の対策が必要です。

親子みんなが集まる機会をつくり、相続について話し合った内容を、本人が遺言書にまとめるようにしましょう。

権利関係を整理しておく

土地の権利証は早めに確認し、所有者欄をチェックしておきます。

所有者欄に知らない人の名前があった場合は、親族らに尋ねてみましょう。

きっと手がかりが見つかります。

遺品整理は早いうちから、なるべく多くの人数で始める

遺品整理をしないまま空き家を放っておくと、家が傷み買い手が見つけづらくなる上、維持費がかさみます。

また、一人で遺品整理を進めると、きょうだい間でトラブルが起こりやすくなります。

遺品整理はできれば大人数で、早めに終わらせるのがおすすめです。

葬儀後、親族らが帰ってしまうまでに貴重品だけはなるべく残さず見つけておきましょう。

この記事を書いた人

奥山 晶子

葬儀社への勤務経験、散骨を推進するNPO「葬送の自由をすすめる会」の理事の経験、遺品整理関係の著書・サイト制作サポートなどから、終活全般に強いライター。ファイナンシャルプランナー(2級)。終活関連の著書3冊、監修本1冊。最近の著書は「ゆる終活のための親にかけたい55の言葉」オークラ出版。ほか週刊現代WEBなどサイトへの終活関連コラム寄稿、クロワッサン別冊「終活読本」の監修や、令和6年5月発刊「ESSE」6月号のお墓特集を監修している。

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