親が認知症になったら、お金の管理を子ができる?任意後見制度とは
更新:2022.02.18
親が認知症になってしまったとしても、それを理由に子世代が銀行のお金を管理したり、親所有の不動産を売却したりといったことは、簡単にはできません。
とはいえ、自分でさまざまな判断ができなくなってくる親の財産を、なんとか守ってあげたいと思う子どもは多いでしょう。
親が元気なうちに任意後見制度を利用しておくのがおすすめです。
後見制度の種類や利用方法、親に「利用しよう」と話を切り出すときに参考となるフレーズをご紹介します。
目次
親の判断能力が衰えると、財産をしっかり管理できなくなってくる
超高齢化社会を迎えた今、認知症になってしまうのは、誰にとってもありえることです。
厚労省によると、2025人には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されており、シニアはもとより子世代においても、認知症は他人事ではない、重要なテーマといえるでしょう。
認知症になると、記憶力や判断能力の低下により、金銭管理が正しくできなくなる恐れがあります。
「年金の支給日に、スーパーでお金を使い切ってしまった。
しかも生の魚や肉を大量に買うなど、結局は使い切れず捨てなければならないものばかり」
「特殊詐欺に巻き込まれ、大金を失ってしまった」
そんなトラブルが起こっています。
認知症の親のお金は引き出せない?
大事な老後資金を守るため、子どもが「一肌脱ごう」とお金を管理しようとしても、親が認知症になってからでは、できることがあまりありません。
親名義の預貯金を子どもが引き出すのは簡単ではなく、認知症ともなればなおさら「後見人を立てて、また来てください」といわれる可能性は高いでしょう。
子どもといえども、銀行にとっては「利用者本人以外の人」。
本人でも、正式な代理人でもない人に利用者の預貯金を引き渡すのはできないという考えからです。
もっとも、「認知症の親のお金を引き出したい」という子世代の相談が増加したこともあり、銀行業界の対応は柔軟になりつつあります。
2021年には、一般社団法人全国銀行協会が、金融取引の代理等に関する考え方をまとめた指針を出しています。
そこには、高齢の顧客や子世代などの代理人と金融取引を行う際のポイントが記載されています。
参考:金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について
親が認知症になる前に契約しておく、任意後見制度とは
銀行の対応が今後柔軟になる可能性があるとはいえ、実際の対応は、各銀行によってさまざま。
不安な人は、早めに対策をしておいた方がいいでしょう。
親の正式な後見人になれば、親の財産を適切に保護したり、重要な手続きや契約を補佐したりすることが可能になります。
認知症者のほか、子どもや脳に障がいを持った人などの後見人を決める制度は「成年後見制度」といわれ、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
法定後見制度とは
成年後見制度のうち、法定後見制度は、本人の判断能力が不十分になってから利用する制度です。
本人は後見人を自ら選べないため、家庭裁判所によって後見人が選任されます。
このとき、必ずしも身内が後見人に選ばれるとは限りません。司法書士、弁護士といった専門職が選ばれることもあります。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに、本人の意思で後見人や後見内容を決めておく制度です。
本人が後見人を決めるのですから、子世代を指定しておけば、認知症になった際には子世代がしっかりと財産を管理することが可能になります。
以上のように、認知症になってから対策しようとすれば法定後見制度を利用するしかなくなり、家族が後見人に選ばれない場合もあります。
親の財産管理を第三者へ一任することに、抵抗を感じる人も少なくないでしょう。
可能であれば、任意後見制度を選択したいところです。
任意後見制度を利用する流れ
任意後見制度を利用する場合、流れは以下の通りです。
1.任意後見契約を結ぶ
本人の判断能力が確かなうちに、契約を結びます。
まずは、後見人と契約内容を決定した上で公正証書を作りましょう。
契約内容は、「財産の管理はどうするか」「介護をどこで受けたいか」「病気になったらどの病院で治療を受けるか」などの視点から、なるべく具体的に決定します。
契約内容がまとまったら公証役場へ行き、公正証書を作成します。
公正証書が作られたら、法務局へ出向き、後見登記の依頼を行います。
2.本人の判断能力が低下したら、任意後見監督人選任の申立てを行う
本人が認知症などになり、判断能力が低下した時点で、契約内容を実行するため任意後見監督人選任の申立てを行います。
任意後見監督人とは、本人の財産が後見人によって適切に管理されているかを監督する立場です。
司法書士、弁護士といった専門家が選ばれることが多いでしょう。
申立て書類を管轄の家庭裁判所に提出し、任意後見監督人が選ばれるのを待ちます。
3.任意後見が開始される
任意後見監督人の選任がなされたら、任意後見人は本人の財産を、責任を持って管理し、そのほか健康支援などを行います。
任意後見制度を利用する際の注意点
任意後見制度を利用する際には、以下の3点について注意しましょう。
後見制度は「本人のため」と理解する
法定後見制度であれ、任意後見制度であれ、成年後見制度の第一目的は、本人の権利を守ることです。
親と子どもという関係性であっても、子どもが後見人になるのは「親のお金を管理するため」だけではなく「本人の財産を守り、金銭的にも身体的にも保護や支援を行うため」であることを、しっかり認識しましょう。
財産管理は厳密に行う必要がある
後見人になったその日から、本人の財産を動かすときには、例え少額であっても記録が必要です。
財産目録を作成し、定期的に財産の管理状況を任意後見監督人へ提出することになります。
同居家族であればなおさら、財布を分けて管理するのは難しいもの。
しかし、監督人にしっかり報告するために、「本人のための費用は本人の財産から」を徹底したいものです。
制度利用には費用がかかる
任意後見監督人へ、毎月報酬を支払う必要があります。
相場は、一ヶ月あたり1万円から3万円程度で、管理財産の金額によって違う場合も。最初にきちんと確認しておきましょう。
親に「任意後見制度を利用しよう」と切り出すには?
親に「認知症になったときのために、今のうちに後見契約を行っておこう」と切り出すのは、とても難しいものです。
しかし、いざ親が認知症になってしまうと、任意後見制度を選択できなくなり、子世代が後見人になれない可能性があります。
まずは親が「認知症」に対してどれほど不安を抱えているのか、知ることから始めましょう。
例えば、以下のようなフレーズで親の反応をうかがってみるのはいかがでしょうか。
「高齢者の5人に1人が、認知症になるって言われてるらしいね」
先述のように、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。
こういった情報や、ニュースの関連記事をきっかけに話題を振ってみると、親が認知症についてどう思っているかがわかるでしょう。
「特殊詐欺とかの電話、来ていない?大丈夫?」
あくまで「心配している」をベースに、高額な買い物や電話の詐欺などのトラブルに巻き込まれていないかを探ります。
「●●さんの家、詐欺の電話がかかってきたって」など、近隣の情報を使うのもいい手です。
「お父さん(お母さん)って、認知症になりそうにないよね」
まだまだ元気な親にそんな声をかけると、「いやいや、自分だってどうなるか分からないよ」と、謙遜の言葉が聞こえることも。
「この前も、○○の用事を忘れた」など、自分の今を開示してくれるかもしれません。
「財布がパンパンな人は判断能力の低下に注意、ってテレビで言ってた」
判断能力が鈍ると瞬時に小銭を数えられなくなるため、お札を出しておつりをもらうことが多くなり、財布が小銭で膨らんでゆくというのは、よく知られたエピソードです。
買い物のついでなどに、話を振ってみるのもいいでしょう。
親のお金を管理するのは「親のため」。それを忘れずにいよう
任意後見制度は、最初の手続きこそ面倒で月々の報酬もかかりますが、親の生活を子どもが直接保護するため有効な方法です。
なお、親のお金を適切に管理するためには、任意後見制度のほかに、金融機関が取り扱う家族信託を利用する方法もあります。
いずれにせよ、「子どもの自分が楽になるため」ではなく「親の生活を安全、安心にするため」の制度利用だということを忘れずにいましょう。
家族みんながずっと笑顔であるために、親が元気なうちから対策するのが大事です。
この記事を書いた人
奥山 晶子
葬儀社への勤務経験、散骨を推進するNPO「葬送の自由をすすめる会」の理事の経験、遺品整理関係の著書・サイト制作サポートなどから、終活全般に強いライター。ファイナンシャルプランナー(2級)。終活関連の著書3冊、監修本1冊。最近の著書は「ゆる終活のための親にかけたい55の言葉」オークラ出版。ほか週刊現代WEBなどサイトへの終活関連コラム寄稿、クロワッサン別冊「終活読本」の監修や、令和6年5月発刊「ESSE」6月号のお墓特集を監修している。